至高の一杯を求めて 玉露の濃厚な旨味を引き出すための温度と時間に徹底的にこだわった淹れ方

種類別:玉露
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玉露とは 至高の味わいへの誘い

日本茶の最高峰とも称される玉露は、とろりとした甘みと濃厚な旨味、そして奥深い香りが特徴です。「高級な出汁のよう」とも形容されるその味わいは、多くの人々を魅了します。煎茶とは栽培方法から異なり、格別な旨味を引き出すには温度と時間にこだわった淹れ方が不可欠です。本稿では、その秘密と魅力的な淹れ方を解説します。

玉露の起源は江戸時代後期、宇治の茶師が「玉の露」と呼ばれる茶葉を発見したことに始まります。独自の風味を生む被覆栽培もこの頃確立され、先人の努力により高級茶としての地位を築きました。

玉露の旨味の源泉 被覆栽培とテアニンの秘密

玉露の独特で芳醇な旨味は、手間暇を惜しまない「被覆栽培」という伝統農法に由来します。

手間暇かけた被覆栽培

玉露の品質を決定づけるのは、茶摘み前の約20~30日間行われる被覆栽培です。よしずや寒冷紗で茶園を覆い、日光を段階的に最大90%以上遮断します。この遮光により茶樹の光合成が抑制され、旨味成分「L-テアニン」が渋味成分「カテキン」へ変化するのが抑えられます。

テアニンがもたらす至福の味わい

L-テアニンは玉露特有の甘みと旨味の主成分であり、被覆栽培によって豊富に蓄積されます。テアニンにはリラックス効果なども期待できます。被覆栽培はまた、葉緑素の分解を抑えて鮮やかな濃緑色を保ち、茶葉を柔らかくするため、製造でも丁寧な扱いが求められます。この繊細さが、低温で淹れる重要性に繋がります。

熟成が深める風味

一部では収穫後に数ヶ月熟成させ、青臭さを抜き、旨味を茶葉全体に行き渡らせて風味を深めることもあります。

なぜ「低温」で淹れるのか 玉露の成分を科学する

玉露の淹れ方で「低温」が推奨されるのは、含有成分の抽出特性と味わいのバランスに深く関わっています。

旨味成分テアニンの性質

玉露の魅力である旨味と甘みの源L-テアニンは、低温でも比較的よく溶け出し、60℃前後で抽出がピークに達します。これが低温で玉露の旨味を効果的に引き出せる科学的根拠です。

渋味・苦味成分の抽出を抑える

一方、渋味成分のカテキン類は低温では溶け出しにくく、高温ほど抽出量が増えます。苦味の主な要因となるカフェインも、80℃を超えると急激に抽出されやすくなります。

玉露は煎茶よりカフェイン含有量が多いため、高温で淹れると豊富なカフェインが過剰に抽出され、旨味が苦味に覆われる可能性があります。低温抽出は、テアニンを最大限に引き出しつつ、カテキンやカフェインの過度な抽出を抑え、調和の取れた味わいを生む合理的な方法です。

味わいを感じやすくする効果

また、熱すぎると繊細な旨味が感じ取りにくいため、低温で淹れることは成分バランスを整え、旨味を最も心地よく感じ取れる状態にする点でも合理的です。

これらの科学的背景をまとめたものが、以下の表です。

表1 玉露の主要成分と抽出温度の関係

成分 主な味覚 抽出されやすい温度帯 低温抽出のメリット
テアニン 旨味、甘味 低温(20℃~)でも溶出、60℃前後でピーク 旨味を最大限に引き出しやすい
カテキン 渋味 高温になるほど溶出量増加 渋味の抽出を抑え、まろやかな味わいに
カフェイン 苦味 高温(特に80℃以上)で急激に溶出量増加 苦味の抽出を抑え、旨味とのバランスを保つ

このように、玉露の淹れ方における「低温」という選択は、単なる慣習ではなく、茶葉の成分特性に基づいた、旨味を最大限に引き出すための科学的なアプローチなのです。

「じっくり」淹れるということ 抽出時間と味わいの関係

玉露の淹れ方では「低温」と並び、「じっくり」時間をかける点が重要です。これは温度と抽出時間が密接に関連するためです。

低温抽出と時間の関係

物質の溶解は温度が低いほどゆっくり進むため、低温でテアニンを効果的に引き出すには、茶葉とお湯の接触時間を十分確保する必要があります。焦らず待つことが肝心です。

待つ時間が育む旨味

玉露の一煎目の抽出時間は約2~3分が目安です。低温で茶葉がゆっくり開き、旨味や香気成分が溶け出すのを待ちます。2分前後で旨味の増加は緩やかになり、渋味は増え続けるため、この時間が目安です。短い時間ではテアニンが十分溶け出さず、本来の旨味を味わえません。

高温抽出と異なり、低温でじっくり淹れる玉露では「待つ時間」が旨味を育むプロセスです。「じっくり」には、高品質な玉露への敬意と、心を込めて淹れる心構えも含まれます。栽培の手間暇を活かすため、淹れる側も茶葉と向き合う時間を大切にしたいものです。

実践 玉露のポテンシャルを最大限に引き出す淹れ方

実際に玉露の豊かな旨味を最大限に引き出す具体的な淹れ方を、一煎目から三煎目まで解説します。

準備するもの 茶器と湯冷まし

玉露を淹れるには適切な茶器選びも大切です。少量のお湯でじっくり抽出するため小ぶりな急須、特に「宝瓶(ほうひん)」が適しています。湯呑みは繊細な色や香りを楽しむため、内側が白い小ぶりのものが良いでしょう。沸騰したお湯を冷ます「湯冷まし(ゆざまし)」も不可欠で、器へ移すたびに約10℃ずつ温度が下がるのを利用し調整します。

一煎目 低温とじっくりが生み出す至極の一滴

一煎目は、玉露の真髄である旨味と甘みを凝縮して味わうための最も重要なステップです。

茶葉の量

他の日本茶より多めの茶葉を使い、3人分で約8g~10gが目安です。茶葉とお湯の量を正確に計ることが美味しさのポイント。基本量から好みで調整しましょう。

お湯の準備と湯冷まし

新鮮な水を沸騰させ、カルキ臭が気になる場合は一度冷まします。沸騰したお湯(90℃~100℃)を湯冷ましに注ぎ10℃~20℃下げ、次に湯呑みに注ぎ分け、湯呑みを温めつつさらに10℃程度下げ、湯量を計ります。一煎目の目標温度40℃~60℃(特に40℃~50℃推奨)になるまで移し替えて調整します。

湯量

茶葉が浸る程度の少ない湯量で、3人分(茶葉8g~10g)に対し50ml~60mlが目安。実際に飲める量は30ml~50ml程です。

抽出

適温のお湯を茶葉を入れた急須に静かに注ぎ、蓋をして2分~2分半待ちます。急須を揺らさず、茶葉が静かに開くのを待ちましょう。

注ぎ方

抽出後、各湯呑みに均等な濃さになるよう少量ずつ交互に「回し注ぎ」します。旨味が凝縮された「最後の一滴まで」注ぎ切ることが重要です。

二煎目・三煎目 変化する味わいを楽しむ

一煎目後も二煎目、三煎目と味わいの変化を楽しめます。一煎目後は急須の蓋をずらすか取り、蒸れを防ぎます。

二煎目

湯の温度は、一煎目より少し高い50℃~70℃で、抽出時間は10秒~30秒と短時間で淹れ、爽やかな味わいを楽しみます。

三煎目

湯の温度はさらに上げ、60℃~80℃以上、あるいは熱湯でも良いでしょう。抽出時間はこちらもごく短時間で、香ばしさや程よい苦渋味、キリッとした味わいを楽しみます。

玉露の淹れ方は多くの要素が絡み合います。数値を守り、「最後の一滴まで注ぎ切る」ことで次の煎も美味しくいただけます。

以下の表は、玉露の基本的な淹れ方の目安をまとめたものです。

表2 玉露の基本の淹れ方(一煎目~三煎目 目安)

煎の数 茶葉の量 (目安) (3人分) 湯量 (目安) (3人分) 湯の温度 (目安) 抽出時間 (目安)
一煎目 8g~10g 50ml~60ml 40℃~60℃ 2分~2.5分
二煎目 (一煎目と同じ) (同量~やや多め) 50℃~70℃ 10秒~30秒
三煎目 (一煎目と同じ) (同量~やや多め) 60℃~80℃以上 ごく短時間

これらの数値を参考に、ご自身の好みや使用する茶葉に合わせて調整してみてください。

玉露をさらに楽しむ特別な淹れ方

基本的な淹れ方を堪能した後は、さらに奥深い世界を探求する特別な淹れ方にも挑戦しましょう。

氷出し 清涼感と凝縮された旨味

「氷出し」は氷で玉露を抽出する方法で、暑い季節に最適です。容器に茶葉と氷を入れ、自然に溶けるのを待ちます。0℃に近い水でゆっくり抽出するためカテキンやカフェインの溶出が極限まで抑えられ、渋味や苦味がなく甘みと旨味が濃厚に凝縮された格別な一滴が得られます。

しずく茶 究極の旨味体験

「しずく茶」は玉露の旨味のエッセンスを「しずく」で味わう贅沢な淹れ方です。少量の茶葉に体温程度のごく少量のお湯を注ぎ2分待ち、蓋をずらして数滴をすすります。極めて少ない水分で低温抽出するため旨味と甘みが極限まで濃縮され、玉露のポテンシャルを凝縮した形で体験できます。

氷出しやしずく茶は、玉露の低温・じっくり抽出の原則を極限まで推し進めた方法で、感覚的な体験を提供します。

玉露選びと保存のポイント

美味しい玉露を選び、風味を保つための選び方と保存方法をご紹介します。

美味しい玉露の選び方

美味しい玉露は、深く濃い緑色で艶があり、針のように細く均一に撚られた形状、そして「覆い香(おおいか)」と呼ばれる甘く独特な香りが特徴です。専門店で相談するのも良いでしょう。

風味を保つ保存方法

玉露は光、湿気、高温、酸素、移り香に弱いため保存に注意が必要です。密閉容器に入れ冷暗所で保存し、開封後は早めに飲み切りましょう。未開封なら冷蔵・冷凍保存も可能ですが、常温に戻してから開封します。開封後の冷蔵・冷凍庫への出し入れは避けましょう。

玉露の茶殻も楽しむ

丁寧に淹れた玉露の茶殻は栄養豊富で美味しく食べられます。

栄養豊富な茶殻

玉露の茶殻には食物繊維、ビタミン、タンパク質、テアニンなどが残っており、柔らかく苦渋味が少ないため食べやすい「食べるお茶」です。

簡単茶殻レシピ

茶殻はポン酢や醤油でおひたしにしたり、刻んでご飯に混ぜたり佃煮にするなど活用できます。栄養を丸ごと摂取でき食品ロスも減らせます。鮮度が大切なので早めに使い切りましょう。

一杯の玉露に心を込めて

本稿では玉露の旨味を最大限に引き出す淹れ方を、栽培の秘密から科学的理由、実践方法、選び方や茶殻活用まで解説しました。

玉露の魅力は被覆栽培による豊富なテアニンにあり、低温でじっくり丁寧に淹れることが不可欠です。一煎ごとに調整し多様な表情を楽しむのも魅力です。

ご紹介した淹れ方は目安であり、嗜好品であるお茶はご自身の最高の味わいを見つける旅も楽しみの一つです。

最後に、「おいしいお茶を飲んでもらいたいという気持ちと心を込めて淹れると、なおいっそうおいしくなります」。淹れ手の心遣いが味わいを深めるのかもしれません。玉露を通じて心豊かなひとときを過ごされることを願います。

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