意外と知らない?一杯のお茶ができるまで 日本茶の製造工程を徹底解説

基本知識・初心者向け
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普段、私たちが口にする日本茶。その一杯には、多くの工程と作り手の繊細な技、そして深い知恵が注がれています。茶畑の生葉が、香り高く心安らぐ味わいの日本茶へと姿を変える秘密は、緻密に計算され、受け継がれてきた製造工程と、お茶の種類ごとに異なる製法にあります。

この記事では、日本茶の基本から、普段あまり光が当たらない製造工程の奥深い世界まで、各ステップを丁寧に解き明かします。これを読めば、いつものお茶がもっと美味しく、愛おしく感じられるでしょう。一杯に込められた日本の文化と職人の情熱に触れる旅へ、出かけましょう。

  1. 日本茶とは何か その定義と広がる世界
    1. 緑茶 不発酵が生み出す日本の味
  2. 日本茶の主要な種類とその個性豊かな特徴
    1. 煎茶 日本で最も愛されるお茶
    2. 玉露 被覆栽培が生む至高のうま味
    3. 抹茶 碾茶を挽いた「飲む」お茶
    4. かぶせ茶 煎茶と玉露の「いいとこ取り」
    5. ほうじ茶 焙煎が生む香ばしさと優しさ
    6. 玉緑茶 勾玉のような丸い形が特徴
    7. 番茶 日常使いの素朴な味わい
  3. 茶葉から荒茶へ 基本的な製造工程の流れ
    1. 摘採 すべてはここから始まる
    2. 蒸熱 緑色と鮮度を保つための加熱
    3. 揉み 形を作り、成分を引き出す
      1. 葉打ち・粗揉 熱風の中で力強く
      2. 揉捻 水分を均一に、組織を破壊
      3. 中揉 形を整えながら乾燥
      4. 精揉 美しい針状へ最終仕上げ
    4. 乾燥 長期保存のための最終工程
  4. 製造工程の比較 煎茶・玉露・抹茶 その違いの核心
    1. 栽培方法 光が個性を育む
    2. 蒸熱 酸化を止める基本工程
    3. 揉み工程 最大の分岐点
    4. 乾燥と最終形状 それぞれのゴールへ
  5. 仕上げ工程 荒茶から製品へ磨きをかける
    1. 選別 均質性を高め、美しさを整える
    2. 火入れ 香りを引き出し、保存性を高める画竜点睛
    3. 合組(ブレンド) 品質を安定させ、個性を創造する
  6. 地域性と多様性 土地が育むお茶の個性
    1. 釜炒り茶 蒸さずに「炒る」伝統製法
    2. その他の地域差がもたらす個性
  7. 手仕事の温もりと最新技術 伝統と革新の融合
    1. 摘採 手摘みの品質と機械摘みの効率
    2. 揉み 手揉みの技と機械揉みの普及
    3. 伝統技術の価値と継承の課題
  8. まとめ 一杯のお茶に込められた知恵と技への感謝

日本茶とは何か その定義と広がる世界

まず、「日本茶」とは何か、その基本的な定義を見ていきます。一般的に「日本茶」とは、「日本国内で生産された緑茶」を指すことが多いです。

緑茶 不発酵が生み出す日本の味

緑茶は、ツバキ科の常緑樹「チャノキ」の葉を原料とします。最大の特徴は、摘採後すぐに加熱処理(主に蒸気で蒸す、稀に釜で炒る)を行う点です。この加熱(殺青 さっせい)で茶葉の酸化酵素の働きを止めます。

酵素の働きを止めることで、茶葉は発酵せず「緑」色を保つため、「不発酵茶」と呼ばれます。もし加熱せず放置すれば酸化発酵が進み、烏龍茶(半発酵)や紅茶(完全発酵)になります。日本茶の多くは、同じチャノキの葉から「発酵させない」ことで独自の個性を確立したお茶なのです。

私たちが楽しむ煎茶、玉露、抹茶、ほうじ茶なども、製法は違えど、この「緑茶」のカテゴリーに属します。

日本茶の主要な種類とその個性豊かな特徴

日本茶(緑茶)の世界は多様性に富み、その違いは主に「栽培方法」と「製造工程」によって生まれます。代表的な種類とその特徴を紹介します。

煎茶 日本で最も愛されるお茶

日本国内で最も生産量が多く、広く飲まれている日本茶の代表格です。太陽光を浴びて育った茶葉を蒸し、揉みながら乾燥させて作ります。うま味、甘味、苦味、渋味のバランスが取れた爽やかな香りが魅力です。

「深蒸し煎茶」は蒸し時間を通常の2~3倍長くしたもので、茶葉は細かくなりますが、渋みが抑えられ、まろやかで濃厚な味わいと濃い緑色の水色が特徴です。

玉露 被覆栽培が生む至高のうま味

高級茶として知られ、一番茶の摘採前約20日間、茶園をよしず等で覆い日光を遮る「被覆栽培」で育てます。これにより、うま味成分テアニンが増加し、渋み成分カテキンが抑えられ、覆い香と呼ばれる独特の香りと濃厚なうま味、甘みが生まれます。製造工程は煎茶とほぼ同じですが、柔らかい茶葉をより丁寧に扱います。

抹茶 碾茶を挽いた「飲む」お茶

玉露と同様に被覆栽培しますが、蒸した後に「揉まずに」乾燥させた「碾茶(てんちゃ)」を石臼で挽いて微粉末にしたものです。揉まずに石臼で挽くことで、鮮やかな緑色、豊かなうま味と苦み、独特の香りが生まれます。茶葉そのものを飲むため栄養を丸ごと摂取できます。

かぶせ茶 煎茶と玉露の「いいとこ取り」

摘採前約1週間、茶園を被覆して栽培した茶葉を、煎茶と同様に製造します。玉露のうま味と覆い香、煎茶の爽やかさを併せ持ち、バランスの取れた風味が楽しめます。

ほうじ茶 焙煎が生む香ばしさと優しさ

煎茶や番茶などを強火で焙じて作ります。高温焙煎でカフェインやタンニンが減り、苦み渋みが抑えられ、香ばしい香り(火香、焙煎香)が生まれます。すっきりした飲み口でカフェインが少ないため、広く親しまれています。

玉緑茶 勾玉のような丸い形が特徴

主に九州地方で作られ、最後に針状に整える「精揉」を行わないため、勾玉のような丸みを帯びた形が特徴です。「蒸し製玉緑茶」(グリ茶)と「釜炒り製玉緑茶」があり、どちらもまろやかな味わいです。

番茶 日常使いの素朴な味わい

二番茶や三番茶、秋冬番茶など、やや硬くなった茶葉や茎を原料とし、煎茶と同様の製法で作られます。地域独自の番茶も存在します。手頃な価格でさっぱりした味わいのため、日常的に飲まれるお茶です。

茶葉から荒茶へ 基本的な製造工程の流れ

生葉を一次加工し、貯蔵・流通に適した「荒茶」にする工程と、それを製品にする「仕上げ工程」があります。まず基本となる荒茶工程の流れです。

摘採 すべてはここから始まる

品質を決定づける最初のステップです。主に春(一番茶)に新芽を摘みます。丁寧な「手摘み」と効率的な「機械摘み」があり、現在の主流は機械摘みです。摘んだ生葉は酸化が進むため、鮮度が重要で、速やかに工場へ運ばれます。

蒸熱 緑色と鮮度を保つための加熱

高温の蒸気で蒸す、緑茶製造で最も重要な工程の一つです。生葉の酸化酵素の働きを熱で失活させ(殺青)、発酵を止め、緑茶の色と香りを保ちます。同時に青臭さを取り、葉を柔らかくして後の揉み工程をしやすくします。蒸し時間の長さが味・香り・水色に大きく影響し、普通煎茶で30~50秒、深蒸し煎茶ではその2~3倍が目安です。

揉み 形を作り、成分を引き出す

蒸した茶葉を揉みながら乾燥させる工程です。水分を取り除くだけでなく、組織を適度に壊して成分を抽出しやすくし、煎茶の場合は美しい針状の形を作ります。煎茶ではさらに細かく段階が分かれます。

葉打ち・粗揉 熱風の中で力強く

蒸し上がった葉を冷却・ほぐし(葉打ち)、熱風を当てながら強く揉み込み、水分を蒸発させます(粗揉)。

揉捻 水分を均一に、組織を破壊

加熱せず力を加え、葉内部の水分を表面に出して均一化し、葉の組織を壊して成分を抽出しやすくします。

中揉 形を整えながら乾燥

再び熱風を当てて揉み、葉を撚れた形に整えながら乾燥を進めます。

精揉 美しい針状へ最終仕上げ

熱と圧力を加え一定方向に揉み込み、針のように細長く艶のある形状に整えます。煎茶の美しさはこの工程で作られます。

乾燥 長期保存のための最終工程

一連の揉み工程後、乾燥機で水分含有率を約5%まで下げ、長期保存を可能にします。これで「荒茶」が完成です。生葉の重さは約1/4~1/5になります。

製造工程の比較 煎茶・玉露・抹茶 その違いの核心

煎茶、玉露、抹茶(碾茶)は同じ緑茶ですが、際立った個性があります。その違いは「栽培時の被覆」の有無と、「製造時の揉み」の有無が鍵です。

栽培方法 光が個性を育む

煎茶は日光を浴びますが、玉露と抹茶(碾茶)は摘採前に一定期間(玉露約20日、碾茶はそれ以上)茶園を覆い日光を遮る「被覆栽培」を行います。これがうま味(テアニン)と渋み(カテキン)のバランスを変え、特有のうま味や覆い香を生みます。

蒸熱 酸化を止める基本工程

いずれのお茶も蒸熱で酸化酵素の働きを止めます。被覆した葉は柔らかいため、より繊細な調整がされることがあります。

揉み工程 最大の分岐点

最大の違いは「揉む」か「揉まない」かです。煎茶と玉露は蒸した後「揉み」工程を経て針状に整えられ、成分が出やすく見た目も美しくなります。玉露はより優しく揉まれます。一方、抹茶の原料「碾茶」は蒸した後「揉まずに」乾燥させ、平たいフレーク状にします。これが石臼で挽きやすくするためで、「揉まない」ことが抹茶の決定的な要素です。

乾燥と最終形状 それぞれのゴールへ

煎茶・玉露は揉みながら乾燥し、最終的に乾燥機で仕上げ、細長い形状になります。碾茶は揉まずに碾茶炉で乾燥させ、平たいフレーク状になり、これを石臼で挽いて抹茶が完成します。

このように「被覆」と「揉むか揉まないか」が、各々の風味と用途を生み出しています。

仕上げ工程 荒茶から製品へ磨きをかける

荒茶という「素材」を製品のお茶に完成させるのが「仕上げ工程」です。主に製茶問屋などで行われ、専門技術やこだわりが反映されます。

選別 均質性を高め、美しさを整える

荒茶に含まれる不揃いな葉、茎、粉、異物などを取り除き、製品の均質性を高めます。ふるい分け、風力選別、静電選別、色彩選別機など多様な技術が使われ、外観や味、香りを整えます。選別された茎や粉は「茎茶」「粉茶」になることもあります。

火入れ 香りを引き出し、保存性を高める画竜点睛

仕上げ工程で特に重要なのが「火入れ」です。選別された荒茶を再度加熱します。目的は二つあり、一つは水分をさらに減らし(約3%へ)貯蔵性を高めること、もう一つは加熱で「火香(ひか)」と呼ばれる独特の香ばしさを引き出し、香味を向上させることです。火香は個性を決める重要な要素で、温度と時間の微妙な調整には熟練の技が必要です。

合組(ブレンド) 品質を安定させ、個性を創造する

多くのお茶は、複数の荒茶を組み合わせた「ブレンド茶」です。この作業を「合組」と呼びます。主な目的は、年間を通じて製品の品質(味、香り、水色)を一定に保つことです。気候等で品質が変動する荒茶を、専門家(茶師)が巧みに組み合わせ、安定供給を可能にします。また、異なる長所を組み合わせ、より複雑で奥行きのある香味を創造する作業でもあります。

地域性と多様性 土地が育むお茶の個性

日本茶の製造方法は全国一律ではなく、地域の気候、風土、歴史、文化が豊かな多様性をもたらします。代表例が九州地方の「釜炒り茶」です。

釜炒り茶 蒸さずに「炒る」伝統製法

日本の緑茶の多くは蒸気で殺青する「蒸し製」ですが、釜炒り茶は高温の鉄釜で生葉を「炒って」殺青します。この「炒り」工程が独特の香ばしい「釜香」を生みます。味わいは渋みが少なくすっきりし、水色はやや赤みがかった黄金色が多いです。精揉を行わないことが多く、茶葉は勾玉のように丸まった形になります。

15世紀頃に中国から伝わり、蒸し製普及前の主流だったとされる古い製法です。現在生産量は僅かで希少性が高く、宮崎、熊本、佐賀、長崎などが主な産地です。日本の緑茶製造の伝統技術を伝える文化遺産としても価値が注目されています。

その他の地域差がもたらす個性

  • 静岡県 日本最大の産地。特に深蒸し煎茶が盛ん。
  • 京都府(宇治) 玉露や抹茶の名産地。伝統技術が継承。
  • 鹿児島県 生産量第2位。温暖な気候で早出し煎茶が有名。抹茶も急増。
  • 福岡県(八女) 高品質な伝統的玉露の産地。
  • 埼玉県(狭山) 「狭山火入れ」による濃厚な味わいが特徴。
  • 佐賀県(嬉野) 蒸し製玉緑茶と釜炒り茶の両方を生産。

これらの個性は、土地の条件や歴史、製茶技術の違いから生まれます。

手仕事の温もりと最新技術 伝統と革新の融合

日本茶製造は、伝統的な手仕事と効率的な機械製法が共存しています。

摘採 手摘みの品質と機械摘みの効率

手摘みは最高品質の茶葉を得られますが、手間とコストがかかり高価です。機械摘みは効率的で手頃な価格を実現しますが、品質は手摘みに劣ります。現在流通するお茶の多くは機械摘みによるものです。

揉み 手揉みの技と機械揉みの普及

手揉みは古来の製法で、熟練の技で芸術的な茶葉が作られますが、時間と手間を要します。機械揉みは手揉みを模倣・自動化したもので、現代の主流となり安定した品質の大量生産を可能にしています。

伝統技術の価値と継承の課題

手摘みや手揉みは貴重な文化遺産ですが、後継者不足や採算性の問題から維持・継承が課題です。技術継承のための支援が重要になっています。

まとめ 一杯のお茶に込められた知恵と技への感謝

日本茶の製造工程は、栽培から摘採、蒸熱、揉み、乾燥、そして仕上げの選別、火入れ、合組まで、多くの段階と繊細な技術から成り立っています。製法の違いが多様な個性を生み出し、そこには伝統と技術が息づいています。

次にお茶を味わう時、その一杯に込められた作り手の技と情熱、日本の自然と文化に思いを馳せてみてください。製造工程への理解は、お茶の時間をより豊かなものにしてくれるでしょう。今日はお気に入りの日本茶を丁寧に淹れ、その一杯に凝縮された知恵と技、自然の恵みに改めて感謝してみませんか。

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